神経発達症(発達障害)とは

*「発達障がい」の呼称が「神経発達症」に変わります。
精神神経学会では、2014 年より病名における「障害」を「症」に変更する提案しておりましたが、わが国でもWHO の疾病国際分類:ICD-11(2022 年1 月発行) の定義を受け入れ、今後は「神経発達症」の名称が公式に使用される予定です。

自閉スペクトラム症:ASDの診断と支援

1)自閉スペクトラム症とは

自閉スペクトラム症:ASD(Autistic spectrum disorder)は、1990年代から提唱された比較的新しい概念のため、「発達障害の中の広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」として日本で知られるようになってからも、世界的に定義や名前が変わり、混乱を招いてしまっていました。現在は、『神経発達症』の中に位置づけられ、「注意欠陥多動症:ADHD」「知的発達症」「発達性学習症」「発達性強調運動症」等とともに脳の情報処理の問題による「体質」的なものと考えられています。 ASDは、「社会的コミュニケーションと対人的相互関係の課題」と、特徴的な「行動や興味,反復的な活動」から診断されるものですが、社会性や対人関係という人の心の最も重要な働きの課題に対して、生まれ持った「体質」と、これを抱えた日々の「育ち」や「生活」から理解するという発達的な視点が、児童精神科の得意とする新しい概念となっています。
もう一つ、健常者との“境界のない連続体:スペクトラム”という考え方も従来にはなかった新しいものです。これには縦軸が自閉症特性となる富士山のイメージを使ってみたいと思います。

山の頂上あたりが特性の顕著な従来の「自閉症」で有病率は0.1%なのですが、山裾の「高機能」と言われるところまでを加えると5-7%にもなってしまい、また0合目(健常者)との境界も分からないのです。またここで、特性の現れ方は環境の影響を受けて変動することもポイントです。ASDの方は環境の変化に敏感で、孤独やトラブルでストレスを感じるとこだわりなどの特性が激しくなる一方で、穏やかな環境の中では逆に特性が影を潜めて目立たなくなり、「治った」かのように見えるようにもなります。

いちえ

むしろ、こうした状況を作ることが支援の目標となるわけですが、思春期や就職・結婚などのライフイベントがASDの方には環境の変化をもたらすリスクになることを覚えておく必要があります。

2)ASDの治療とは

さて、現代の医療では、「治す(悪いものを取り除く:急性モデル)」ことから、「健やかな生活を守る(悪くしない:慢性モデル)」ことの比重が高まってきているのですが、ASDも後者にあてはまるものとなります。
これを食物アレルギーで考えてみましょう。卵アレルギーという体質が知られるまで、湿疹や体調不良に悩む子にも「卵は栄養があるから」と勧めたり、残さずに食べさせることが躾とされていました。しかし現代では、アレルゲン(原因)としての卵が判明すると、除去食という”処方”が提案されます。毎日の食事療法には親ごさんの苦労も大きいですが、給食でも認められたことで続けやすくなり、体質を持ちながらも健やかな生活を送れるようになっています。

ASDの治療とは

一方、ASD児に対して、対人コミュニケーションの苦手さや、空気の読めなさをという体質(特性)に気づかず叱咤激励しても、やはり友だちが作れず、苛立ったり落ち込んだりする「二次性障害」を起こし、これがクリニックを訪れるきっかけになったりします。
 この「二次性障害」に対しては、安定剤などの”処方”も効果はありますが、薬を続けるだけでは成長の過程で同じテーマを繰り返し、「やはりできない」と自己評価を低めてしまいがちです。
ここで、「食物アレルギー」では具体的な対策がわからず、「アレルゲンは卵」というアセスメントから、「卵除去食」という“処方”が決まるように、ASDでも特性のアセスメントなしには、適した育て方や学び方の支援を”処方”できないのです。このため、私たちは専門家としてのスキルを磨いていますが、特性に対する支援を家庭・学校・地域で十分に実現することは簡単ではありません。親ごさんにはこうした現状を理解頂き、よりよい環境作りのパートナーになって頂きたいのです。
大人のASDについても同様に、自分自身の特性を理解することから始まり、必要に応じて支援を求めていくことで、自分らしく健やかなASとして暮らしていけることを支えたいと考えています。

「二次性障害」

3)ASDの支援モデル

ASDにおける脳の情報処理機能の問題としては、情報を取り入れる「感覚」処理のプロセスと「考える」プロセスの課題が指摘されています。
前者をモデルにすると、定型の人では①左のように「聞く」「見る」「触る」「味わう」「嗅ぐ」などのA~Eの情報から反応を考えるのですが、ASDの方は①右のようにCやEがぬけるために、周囲を驚かせるような行動してしまうのです。これにより叱られたり笑われたりすることを繰り返す経験から、自信を無くしたり落ち込んだりする「二次性障害」に陥ってしまうのです。

自閉症者の反応モデル

自閉症者の反応モデル

支援としては、②のように足りないCとEを見つけ(アセスメント)、これを受け取れるようにする工夫を行うことで、望ましい行動がとれるようになるのです。
こうした支援については、脳が柔らかい幼児期から導入し、家庭内でも親さんと訓練を繰り返すことによって、効果が定着しやすくなるため、早期の診断と療育導入の大切さがうたわれており、当法人の「キッズいちえ」ではこれに取り組んでいます。